「脂肪は20分経たないと燃えないので、有酸素運動は20分以上しないと意味がない」というようなことを聞いたことはありますか?
専門家や知識のある人は決してこのような発言はしないのですが、意外と多くの人がこれを信じてしまっているように思います。
今回、この「有酸素運動は20分以上」説の間違っている点を分かりやすく解説し、さらに有酸素運動で痩せるためのポイントを説明します。
目次
Q「有酸素運動は20分以上しないと意味がないって本当?」
有酸素運動は20分過ぎた頃から脂肪が燃え始めるため、20分以上続けないと意味がないとよく聞きます。
では、21分の運動は実質1分の運動分しか脂肪は燃えないのですか?毎日20分以下の運動しかしなかったらダイエットにならないのですか?
このようなご質問をよくいただきます。
『有酸素運動は20分以上』説はダイエットにおいて定番とも言える文言となり、
あらゆるところで見かけるかと思います。
しかし、結論としては以下のとおりです。
「有酸素運動は20分以上しないと意味がない」というのは、全くのデタラメです。
確かに、運動時間によって、エネルギー源として炭水化物の利用率と脂肪の利用率の割合が変わり、20分以上行うと脂肪の利用率が高まります。
しかし、運動の時間に関わらずカロリーは同様に消費しますし、運動後のことを考えると炭水化物を燃焼するか、脂肪を燃焼するかは重要ではありません。
運動時間にこだわるよりも、短時間でも毎日行うほうが重要です。
ダイエットのノウハウには専門家の中でも意見が別れるものは多く存在しますが、
「有酸素運動20分以上」説を唱える人は専門家の中では見たことがありません。
この説は決定的に間違っている点があるのです。
間違いについて指摘する前に、
この「有酸素運動20分以上」説の概要について説明します。
有酸素運動は20分過ぎてから脂肪燃焼効率が高まるのは真実
まず、「有酸素運動20分以上」説についてお話します。
【前提知識】エネルギー源と有酸素運動・無酸素運動について
まず抑えておかないといけないのが、
私達のエネルギー源には2種類あるということ。
- 糖質
- 脂肪
※詳しい話をすると、『エネルギーとは“ATP(アデノシン3リン酸)”という物質で、この物質を作り出すのはATP-CP系、解糖系、有酸素系の3つの種類があり…』という少し専門的な話になるので、少し簡略化してお伝えします
糖質は筋肉や血液中に存在し、すぐに取り出せる分すぐに枯渇しますが、
脂肪はエネルギーになるまでに複雑な経路を経るため時間がかかる分、長時間の供給が可能です。
普段私達の日常動作にはエネルギーを要しますが、
そのエネルギーの需要は緩やかなので、脂肪から時間をかけて取り出す分で大部分がまかなわれています。
しかし、動作の強度が急に上がると、
必要なエネルギーが増え、脂肪では追いつかないので手近なエネルギーである糖質が使われるのです。
運動強度が上がる程、脂肪よりも糖質の利用率が上がります。
Sports Med (2007) 37, 332-336, Sports Med (2008) 38, 213-238
上の図は、運動強度が上がるほど脂質(脂肪)の利用率が下がり、
炭水化物(糖質)の利用率が上がるというのを示したグラフです。
日常の動作ではほとんど脂肪が使われていたのが、
ウォーキング、ジョギング等の有酸素運動では糖質の利用率が上がり、
筋トレや全力疾走などの無酸素運動になるとほぼ糖質のみが使われるということです。
しかし、運動強度の高い無酸素運動だと、
手近に取り出せる糖質はすぐに枯渇してしまうので長時間続けることはできません。
逆に有酸素運動は、脂質から大量にエネルギーを生み出せるので、
長時間の継続が可能なのです。
ただ、誤解する人が多いのですが、
運動によって糖質のみ、または脂肪のみ使われるということはありません。
“糖質にしろ脂肪にしろ、いずれも常に使われており、運動強度によりその割合が変わる”
ということは抑えておきましょう。
有酸素運動が20分以上と言われている理由
前置きが長くなりましたが、何故有酸素運動は20分以上必要と言われているのか?
ここまでの前置きで何となくわかった人も多いと思いますが、
有酸素運動でエネルギー需要が増えてから、脂肪がエネルギーとして取り出されるまで、
この時間が20分はかかるのです。
その分のエネルギーは糖質で補われていますが、
20分を超え、脂肪からエネルギーが十分取り出されるようになれば、
糖質よりも脂肪がエネルギーとして使われます。
この情報だけ見れば脂肪を減らしたいダイエッターは、
有酸素運動を20分以上した方が良いと思うかもしれません。
しかし、この「有酸素運動は20分以上」説は大きな誤りがあるのです。
「有酸素運動は20分以上」説の間違い
簡単に説明すると、
“使われたのが糖質であっても脂肪であっても、消費するカロリーは同じなので、それ以上を議論する意味はない”
ということです。
考えてもらいたいのが、
「エネルギーとして糖質が消費されるのはダイエットにおいて無意味なのか」ということ。
もちろんそんなはずはありません。
私たちは食事によって糖質が補給されますが、
まずは肝臓や筋肉に貯蓄され、過剰分は脂肪になって蓄えられます。
つまり、糖質が十分蓄えられている状態で食事をすると、ほとんどが脂肪になるのですが、
有酸素運動で糖質が消費されれば、脂肪にはなりにくいということです。
これは2010年にオーストラリアで実証されました。
糖質の代わりに脂肪を燃焼するように遺伝子操作されたマウスは、
燃焼した脂肪の分を使われなかった糖質がそのまま脂肪に変わってしまったのです。
結局エネルギー源として消費されるのが糖質であっても脂肪であっても、
運動後を考慮するとあまり意味がありません。
消費カロリーと摂取カロリーの問題に帰結してしまうのです。
有酸素運動は毎日行う習慣をつけるのが大事
では、有酸素運動で痩せたい場合どのように取り組むのが良いのか?
ポイントは、“時間にとらわれず毎日行うこと”です。
有酸素運動1回あたりの時間を気にするのは無意味なので、
「今日は20分以上の時間が取れないから、明日その分時間を取って運動しよう」
というように、運動を後回しにする考えはマイナスにしかなりません。
例えば、週に一回だけ1時間のランニングを行うよりも、
毎日15分だけでもランニングをする方が消費カロリーは遥かに大きいですし、ダイエット効果は見込めます。
1回あたりの運動の時間を長くすると、毎日行うのが困難ですし挫折しやすくなりますが、
軽い運動なら毎日行いやすく、長期間継続することができるものです。
また例を上げると、毎日15分だけ行う運動のダイエット効果を、
一日置きの運動で同じだけの効果を得るには、30分も運動をしないといけません。
二日置きだと45分、週一だと1時間45分です。
このように考えると、
毎日運動を行うのが大事だというのが分かってもらえると思います。
ただ、15分の運動で消費できるカロリーは多くても100Kcal~200Kcal程度なので、
大きなダイエット効果は見込めません。
これで満足できないのであれば、
運動時間を増やすか、食事制限をする必要があります。
あとがき
以上、「有酸素運動は20分以上」説の嘘や、毎日行うことの重要性について説明しました。
最後にまとめると以下のようになります。
- 有酸素運動のエネルギー源は“糖質”と“脂肪”だが、はじめは糖質の利用率が高いが20分を超えてから脂肪の利用率が上がる
- どちらのエネルギーが利用されても、消費カロリーは変わらないし、食事によって補給されることを考えると脂肪の増減はカロリー収支の問題に帰結する
- 有酸素運動を行う時間にこだわる必要はないので、毎日少しずつでも行うのがダイエットに効果的
以前、「有酸素運動は心拍数が大事」説が嘘であることをまとめましたが、
論点はこれと同じですね。
詳細:有酸素運動における「心拍数とダイエット効果(脂肪燃焼)」の嘘について
エネルギー源が何であれ、カロリーを消費するのが大事だということです。
ちなみに、ダイエットにおける有酸素運動の知識について詳しくまとめているので、
ぜひこちらもご覧ください。